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ロールモデル(6)

杉山育江さん  子どもの権利相談員

大学卒業後、会計事務所に就職。1年半の勤務を経て出産退職。二男の幼稚園入園を機に、地域活動や子育て関連等、数多くの学習会に参加。2004年、愛知県のチャレンジ支援事業「レッツ・チャレンジ!」への参加をきっかけに、NPO法人スタッフとして再チャレンジを果たす。2007年4月より、自治体の嘱託職員として、「子どもの権利相談室」で「子どもの権利相談員」となる。


 落ち着いた語りかけに、なんとなくほっとする。そんなあたたかい雰囲気につつまれた杉山育江さん。2007年4月から、自治体の嘱託職員となり、「子どもの権利相談室」で「子どもの権利相談員」として活躍しています。現在は相談者に寄り添って支援する立場の杉山さんですが、かつては自分自身が安心していられる場所を求め、常に「出会いと学び」を探っていました。

敷かれたレール

大学卒業後、1年半の会計事務所勤務を経てその間に結婚。まわりの多くの女性がそうであったように、出産を機に迷うことなく専業主婦となります。「当時は働いて自立するということは考えもしなかったし、そもそもそんな自信もなかったですね。高校から大学に行って、そしてしばらく働いたら結婚。学校や就職先を選ぶといった敷かれたレールの範囲内での選択はありましたが、自分が何をしたいのか、どんな将来にしたいのかといったキャリアプランを考えることすらありませんでした。」そんな中で始まった結婚生活。家事や育児も、ノルマをこなすような感覚だったといいます。ただそのノルマも専業主婦だから家事は完璧に、二人の子どもの育児はすべてひとりで考え対応しなければならないという非常につらいものでした。さらに、夫や夫の両親からの育児などに対する圧力や干渉も加わり、常に不安や葛藤を抱え、息苦しい日々の連続でした。

「出会いと学び」

 心の居場所がわからず不安定な状況で、杉山さんの生きる支えになってきたのが、「出会いと学び」でした。
 子どもが幼稚園に入園してからは、積極的に家の外に活動の場を求めます。子育てに関する学習会への参加や、地域活動などを通して、たくさんの人々と出会い、かけがえのない仲間を得ました。「当時は心の支えや救いを求めるかのように、さまざまな機関に相談に行ったり、仲間や学びを得られる場所に必死で足を運んでいました。」エンパワメント、カウンセリング、セラピー等、自分に必要と思われる講座を受講し続けているうちに、自分の抱えている問題を信頼して話し、理解してもらえる人たちと出会いました。この出会いにより、初めて安心や自信という言葉の意味を実感することができたと言います。
自分を理解してくれる仲間や、自分自身を取り戻すことができた杉山さんは、新たな選択をします。夫や夫の両親から受けていた長い間の言葉や態度による圧力から開放され、子どもと3人で、自由で安心な新たな生活を開始しました。

心のサポートへのチャレンジ

 学びの場を通して、信頼できる仲間に出会い、自分を取り戻しただけでなく、その「学び」が学ぶ立場からサポートする立場へと変わっていきます。
 2002年、学び続けてきた講座のひとつ「AP(アクティブペアレンティング)・より良い親子関係講座」のリーダー認定を受けます。また、2003年には心のケアの専門家である「精神対話士」の資格に挑戦。5月開講の基礎講座に始まり、レポート提出、実践講座、認定試験などを経て、12月に晴れて認定資格を受領しました。そしてそれらの資格を活かし、女性の居場所「ほっとスペース」を自宅で始めます。「なにより自分自身が安心していられる場所で、人と分かち合う学びの場所がほしかったから」と開設の理由を語る杉山さん。心身ともに「ほっと」できて、あったかさ(HOT)を感じられる女性のための居場所です。心を開いて語り、聴き合うことを中心としたワークを行ない、週2回、約2年間で延べ100名もの方が参加しました。

社会参画へ

 「ほっとスペース」開設から1年後の2004年、愛知県の再チャレンジ支援事業「レッツチャレンジ」講座に参加したことをきっかけに、社会参画への道が開けます。この講座の講師の方から、NPO法人のスタッフ募集の情報を得て、応募することに。当時、このNPO法人では、再チャレンジしたくてもなかなかその機会や場所がないという現状から、再チャレンジの意志のある人に、働く場を提供したいという趣旨のもと、こういった講座の受講者をはじめ、広く求人活動をしていました。杉山さんは小論文の提出や面接試験を経て、見事、NPO法人スタッフとして社会参画を果たします。安心していられる場所を得て、次は経済的自立も果たしたいと考えていたときでした。
 杉山さんがNPO法人のスタッフとなった2004年、このNPO法人は、自治体と共に男女共同参画センターの協働運営を行っていました。その後、2006年からは、センターの指定管理者に指定され、管理運営を担っています。杉山さんが参画した再チャレンジの仕事はNPO法人スタッフとして男女共同参画センターでのインフォメーション業務でした。窓口での利用者の受付、貸室の予約、また電話の応対などを担当しました。「常に一人ひとりのニーズや目的を対話から汲み取り、相手の立場や気持ちに寄り添った対応を日々心がけていました。」
 こうした働きぶりが認められ、これまでのネットワークを通して、現在の職場「子ども権利相談室」の求人情報を得ます。以前から心のケアと仕事をつなげたいと考えていた杉山さんですが、思いがけず求人情報に出合い、念願かなって採用となりました。「いままで自分が精神的に苦労してきたので、メンタル面のケアについてはとても興味があり、勉強や、資格を取得してきました。しかし、資格が仕事を引き寄せたというのではなく、いままで自分が築いてきたネットワークが自分の進みたい道へと導いてくれたと思っています。」

「子どもの権利相談員」として

 現在の職場である自治体の「子どもの権利相談室」では子どもの気持ちを聴くことから始まり、最終的には子ども自身で悩みを解決できるようサポートしていくのが相談員としての役目です。「いじめや虐待の悩みを抱えている子どもは自己肯定感が低く、「悪いのは自分」と思い込んでいるケースが多いのですが、相談に来た子どもたちの声がだんだんと明るく、自ら苦しい状況から脱却するためにできること、したいこと等を声に出してくれたときは、こちらも心からうれしくなり、応援したくなります。」仕事に対する充実感を実感しているようです。また家庭では、二人のお子さんが、家事にも取り組むように3人で分担しているとのこと。ただそれでも以前の職場より通勤時間が長いので、ワークライフバランスが崩れることもあるようですが・・・。
 自分の希望する職種で経済的自立も果たした杉山さん。ただ、これで満足というわけではないようです。さらにスキルアップするために、他の資格取得や福祉・相談に関することをもっと専門的に学び、それを実践に活かしたいとのこと。しかしそのためには時間・経済的な余裕も必要です。「現在の状況では新たなことをはじめるのは難しいので、しばらくは現在の職場で、全国でも先駆的な「子どもの権利相談室」のあり方について相談マニュアルや研修制度といった仕組みづくりに注力できたらと考えています。今まで自分がそうだったように、身近なことからこつこつと実績を積み上げていきたいと思います。」と語る杉山さん。子どもの権利相談によってたくさんの子どもたちが元気になっていくことはもちろんのこと、心のケアという領域でどのようなキャリアを積み重ねていくのか、杉山さんの今後に注目です。

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