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ロールモデル(3)

渋谷典子さん  NPO法人参画プラネット 代表理事、名古屋大学大学院法学研究科後期博士課程在籍

NPO法人参画プラネットで前向きに活動を実践しつつ、名古屋大学大学院法学研究科後期博士課程に在籍。
「労働法とNPO」をテーマに、「わたしの問題」を理論化する日々が続いています。


再び学びたいと思い始めたきっかけは「女性学との出会い」

高校卒業後、大学に進学しましたが、当時の渋谷さんが大学に通う目的は、「社会に出る前に4年間の時間がほしい」ということで、「大学=研究」という意識はありませんでした。多くの大学生がそうであったように、渋谷さんの学生時代も、アルバイトと趣味のスキー、友人との交友が中心の大学生活でした。

その後、就職し、結婚・出産で退職。しばらく専業主婦をしていましたが、、女性の自立を支援するグループ活動に参加したことによって、「女性学」に出会います。
その「女性学」との出会いで「こういうことだったら学んでみたい」と思ったのが、「社会人として再び大学で学ぶ」希望を抱いたはじまりでした。渋谷さんが「女性学」に深く関心を持ち、その後の活動へとつながった経緯は、『主婦からプロへ〜夢を実現させた女性たちの記録〜(2001年風媒社)』で渋谷さん自身が綴っています。


活動の広がりとともに広がった学びの視点・「女性学」から「法学」へ

はじめは女性学を深く研究することを考えた渋谷さんでしたが「女性学にとどまることはその中だけで完結してしまうような気がして、社会に有効にインパクトを与える分野はないか」と考え、自分の領域を広げたいと思うようになっていきました。「人間はどうしても自分の枠を決めがちだけれど、横に広げておかないと限界が見えるのでないかと思った」と渋谷さんは言います。

所属していた女性グループがNPO法人となった2000年ごろから、渋谷さんは自治体のプランを書く仕事を担当することが多くなりました。また、名古屋市の外部評価委員を引き受けたことで、政策作成の面白さを知り、行政政策・評価にも関心が広がっていきました。もっといい仕事をするために、政治や社会学についての知識を増やしたいという気持ちが強くなり、それが原動力にもなりました。このような活動の広がりと共に、学びの関心が女性学から社会学へと広がっていったのです。
ちょうどその頃、大学も社会人枠を設置する動きが出始めました。

2003年、所属するNPO団体が名古屋市男女平等参画推進センターの管理運営を受託したことにより、今までの活動が対価を伴う「仕事」となりました。NPO活動が「仕事」となったことで、「NPO活動と労働」の関係が渋谷さんにとって、新たな課題として湧き上がり、研究テーマとして「労働法」を学ぶ道を選ぶことになったのです。

大学の専攻が英米文学だった渋谷さんにとって、まったく未知の「法学」を研究分野に選んだことで
「入学後に大変な苦労を味わうことは予測できた」と渋谷さんは言います。
ただ、「研究するということは、どの分野でも大変なのではないか、たとえ少し知識のある『女性学・ジェンダー』を研究に選んだとしても、大変さは違いなかったかもしれない」とも。
大学院で初めて取り組む「法学」の勉強を次のように振り返ります。

「たとえば、スキーの初心者にとって、上級コースは難しい急坂にみえるけれど、上手になれば急坂もなだらかに思えるように、自分が2年前に読んだときには、とても難しく感じた法学の本を、再び読んでみたら抵抗なく読めるようになった。これは、『2年間がんばったね』と自分への励ましにもなる。」

渋谷さんは、「『できないのではないか』という不安は誰にでもあるけれど、『やってみよう』という気持ちがあれば可能性がある」と言います。大学院合格後から入学までの期間に、勉強のためしばらく、指導教官の授業に出ていましたが、授業内容は今まで勉強したことがない労働判例。まったくわかりませんでした。「とにかく席に座って話を黙って聞いているだけ」という状態が3ヶ月続きました。もらったレジメを何度も読み返し、わからない言葉は辞書で引いて調べました。そうするうちに、授業内容がわかるようになっていったそうです。2年後には、労働判例を題材に、ゼミで発表するまでになリました。

「大学院で学びたい」と思っていた渋谷さんが、実際に入学を決めた理由は「研究をして解決したい」ことがあったからです。「大学で学位をとる」とか、「○○大学を出る」というブランドを目標すると、それができなかったときの挫折が大きいです。
渋谷さんが今まで積み重ねてきた経歴も、ポストや立場を得るためではなく、自分が置かれた立場で必要なことし、足りないことをその都度補給し、積み重ね、気がついたら経験と実績がついてきたのでした。大学院で学ぶことにおいても、その姿勢を貫いています。


社会人として、大学で学ぶためには

2年間の大学院博士前期課程を終え、現在博士後期課程の渋谷さんが自らの経験から、働きながら学ぶ社会人学生が修士論文を進めるコツとして、次のようなことをあげています。

1、 論文は具体的なテーマにする。
2、 ゼミ発表などで書いたレポートを積み上げて、論文に備える。
3、 ゼミの批評を次につなげる。謙虚さを忘れない。
4、 締め切りの直前は、持っている資料か文献で勝負。

働きながら学ぶ社会人にとって、いかに時間を管理し、修士論文にむけて準備していくかがポイントとなりそうです。ゼミ発表のために書いたレポートも無駄にせず、生かしていくことが大事です。反対にいえば、ゼミ発表の題材を選ぶ際に、自分の論文のパーツになるものを選ぶことが重要になってきます。また、人生経験や社会的位置もある社会人にとって、若い学生から批評されることはプライドが傷つくことかもしませんが、批評を謙虚に受け入れて自分の糧としたいですね。

渋谷さんは、社会人にとっての大学での研究は、培った経験知から、新しいものを提案していくためのツールであると考えます。「大学に入ること」や「学位」が目的でなく、自分の研究を発信できたことが成果となります。だからこそ、「社会人が大学の門をくぐる時」には、「大学に入ること」そのものを目的にするのではなく、大学で「何をするのか」をきちんと考えた目標設定をしてほしいとのこと。

現在、名古屋市男女平等参画推進センター指定管理者の統括責任者である渋谷さんは、仕事となったNPO活動の実践が研究のフィールドでもあり、研究したいテーマと深く結びついています。実践者と研究者の「境界線上」に身を置く彼女の今後の研究に期待しています。

渋谷典子さんの執筆活動
・『主婦からプロへ 〜夢を実現した女性たちの記録〜』2001年・風媒社(共著)
・『学びと実践、政策提言から「男女共同参画社会」の創造へ
   〜女性の自立を目指す
NPOの事例をとおして〜』2002年・国立女性教育会館研究紀要第6
・『日本を変えるプランB』2005年・関西学院大学出版会(共著)
・『無名戦士たちの行政改革』2007年・関西学院大学出版会(共著)



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